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命日


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SONY DT 50mm F1.8 SAM


うちのおくさんが永眠したのは、2011年3月13日(日)。
医師の診断書には23時5分の時刻が記録された。
あれから一年。



本日は音楽にまつわる思い出話。

サラ・ヴォーン(Sarah Vaughan)/ Lullaby of Birdland
結婚する前、今から25年以上も前のことだけれど、
初めて私の家に遊びにきたうちのおくさんが、
ジャズを聴いてみたいというので再生したのがこの曲。
コルトレーンやドルフィー、ミンガスはマズイだろうと歌物を選んだのである。

いたく気に入ったようなので、カセットテープに録音して進呈したところ、
あるとき、同アルバムに収録されている April in Paris を鼻歌で歌っていた。
歌物ではジョン・コルトレーン(John Coltrane)名義のアルバムで
ジョニー・ハートマン(Johnny Hartman)が歌う My one and only love がお気に入りだった。

歌物以外では、ビル・エヴァンス(Bill Evans)の Dream Gypsy や、
ズート・シムズ(Zoot Sims)の Autumn Leaves が好きだった。
かなり渋い趣味といえるだろう。
私も、数ある"Autumn Leaves"の中で最も好きなのがズート・シムズのこの演奏である。

ジャズではないが、ジョージ・ウィンストン(George Winston)の Longing/Love も好きだった。
とても素敵な音楽があるからレコード(当時はアナログレコード)を買いに行こうと誘われ、
秋葉原の石丸電気に出かけた。

「ジョージ・ウィンストンって何者?」という私に、
店でお目当てのレコードを探し出したうちのおくさんは、誇らしげに「これだよ」と見せたのであった。
レコードを買ってもらったのは、それが唯一の経験である。

まだ結婚する前だったから「早く帰って聞こうよ」と誘われて帰った先は私の家である。
うちのおくさんはアナログ・プレイヤの YAMAHA GT-2000 が気に入っていた。
何がお気に召したのか今となっては確かめようもないが、
"Longing/Love"を再生する黒くて大きな塊を嬉しそうに見ていた。
まったく、なんというか、昨日のことのように鮮明な記憶として残っている。
昨日の晩飯が思い出せない歳になったというのに。。。

アナログといえば、カーペンターズやビートルズのレコードもよく聞いた。
後年、アナログからデジタル変換した音源をCDに焼いてあげたら
うちのおくさんは車を運転するときそれらの音楽を再生した。
そんなわけで、その車で買い物について行ったうちの子供たちは、
小さい頃から60年代、70年代のポピュラーソングに親しんだ。

プレイヤだけでは音楽は再生できないのだが、アナログ・プレイヤを愛したうちのおくさんは、
引っ越しのとき業者が呆れるくらい厳重にGT-2000をクッション材で梱包したのであった。

思いつくままに、うちのおくさんが好んだ音楽を羅列すると次のとおり。
ディープ・フォレスト(deep forrest)/ Sweet lullaby
エンヤ(Enya)/ Caribbean Blue
ヤン・ティルセン(Yann Tiersen)/ アメリのワルツ
キース・ジャレット(Keith Jarrett)/「ケルン・コンサート」から Part IIc
サラ・ブライトマン&アンドレア・ボチェッリ(Sarah Brightman & Andrea Bocelli)/ Time to say goodbye
ビートルズ(Beatles)/ Honey Pie

変わったところでは、ペンギン・カフェ・オーケストラ(Penguin Cafe Orchestra)。
結婚する前、うちのおくさんの家に遊びに行ったらアナログ・レコードがあった。
air a danser の地味な躍動感が面白い。

躍動感といえば、これも古い話だが、
ストラビンスキーの「春の祭典」をかけると、
当時、歩き出したばかりの長男が音楽に合せて踊った。

「春のきざし」の部分で弦楽器がザッザッザッザッとリズムを刻むと
一歳児は音楽に促されたようにハッと立ち上がり、その場で足踏みをしながら踊った。
私もうちのおくさんも足踏みをしながら踊る習慣がなかったから、
長男のオリジナルである。

何度かけても同じ反応を示したので
面白がって一部始終を8ミリビデオに録画した。

ストラビンスキーの音楽には幼児を鼓舞する魔力でもあるのか。
後年、次男や長女が生まれたとき、同じ反応を示すか試したのだが、
彼らは興味を示さず、魔力は証明できなかった。

晩年、うちのおくさんが愛した音楽は、
ジャズではビル・エヴァンスの "We will meet again (for Harry)"
アルバム "We must believe in spring" の中の一曲で、
寄り添うベースやドラムの演奏も素晴らしい。
ビル・エヴァンス美学の最高傑作だと思う。

ビル・エヴァンスは同曲のソロ演奏盤なども残したが、
"We must believe in spring" 盤が傑出している。

ジャズ以外では、中島美嘉の 雪の華 を好んだ。
歌詞にある「冬のにおいがした」の部分を聞いて、
おとうちゃんと同じことを言ってるね、と喜んでいた。

同じことというのは、いっしょに散歩しているときなど、
そのときどきで変化する土や草のにおいで「そろそろ冬だね」とか、
「春が近い」などと表現したことを指している。

特別に嗅覚が鋭いわけではなく、
誰もが感じるであろう風のにおいを言葉にしただけなのだが、
うちのおくさんは私を犬のような鼻の持ち主だと面白がった。

そして、おとうちゃんは体が弱いから、
先に逝ったら星になってアタシをちゃんと照らしてね、と
歌詞になぞらえてお願いされたものだ。

星になって愛する人を照らすなんてロマンチックだが、
人の死は超新星爆発ではないから、人が死んでも星にはならない。
それが私の回答であった。
人は死んだら焼かれて灰になり土に還る。
蛆虫になって足元にわいて出るかもしれないが、
星になって照らすことは不可能だ、と。
食えないオヤジである。

そんなオヤジを、うちのおくさんは星になって照らしているはずだ。
私の願望ではない。確信である。
うちのおくさんは、そういう女なのである。
by hikihitomai | 2012-03-13 23:05 | 物見遊山
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