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白髪染め



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40歳を過ぎた頃から白髪が目立つようになった。
それで、髪を染めたことがある。
当時、うちの奥さんに強く勧められたからだ。

配偶者の言動だから大目に見ていただきたいのだが、
彼女が私に白髪染めを勧めた理由は次のとおりである。

私は優しそうな顔をした、どちらかといえば甘いマスクだから、
白髪が増えていわゆるロマンス・グレーになると、
渋味が加わり男ぶりが向上して、女性が近づいてくるに違いない。
心配だから、黒く染めて渋味を消してくれ、と。
それが彼女の言い分であった。

私は自分で言うのもアレだが、
馬鹿とか頭がおかしいという理由で女性に振られたことは何度かあるが、
容姿を褒められたことはない。
唯一の例外がうちの奥さんで、惚れ惚れするほどイイ男だという。

「女房が 心配するほど もてもせず、って言うだろ」
「心配する程じゃないってことは、結局はもてるってことでしょ」
そんなことを涙目で訴えられても返答のしようがないので、
望まれるまま髪を染めたのである。

うちの奥さんの嫉妬心には恐怖すべき一面があったことを付け加えておこう。
私のワイシャツに口紅を発見したときが凄かった。
混雑する通勤電車で付けられた口紅である。

彼女は、帰宅したばかりの私にワイシャツをすぐ脱ぐよう要求し、
シミ抜きに取り掛かった。
きれいに落ちないとわかると、ハサミで切り刻んで、
ワイシャツをゴミ箱に捨ててしまったのである。
「鬼気迫る」うちの奥さんに対して、口を挟む余地はなかった。

不可抗力だろうが何だろうが、私に近づく女は許さないそうだ。
許さないどころか「敵」だというのだから、穏やかではない。
髪を染めてくれと望まれれば、従うのが賢明である。

あれから約15年。
いらぬ心配をする奥さんは死んでしまったのだが、再び髪を染めてみた。
彼女が危惧したとおり、ロマンス・グレーはもて過ぎて困るからである、
なんてコトを言ってみたいものだが、そんな色気のある理由ではない。

染める対象があるうちに、染めてみようと。
ぜんぶ抜けてしまえば、染めることもできないからね。


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マイルス・デイヴィス(Miles Davis)/ So what
それがどうした。
by hikihitomai | 2016-01-22 21:00 | 物見遊山
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